「ねぇ、逢いたいの。新しい靴をおろしたの、だから…」

「二十分くらい遅れるけど、いいかな?」
「とっても素敵な靴なの。だから、少しでも逢いたいの」
「なるべく早く行くよ」

待ち合わせの場所に着くと、彼女はじっと自分の靴を見つめていた。
「やれやれ…」
どうやら、僕には気づいていないようだ。
声を掛けると、泣きそうな顔で僕を見上げた。

「ねぇ、見て!この靴よ。あなたの靴と同じ色なの」
「シンプルで、とてもいいね」
「今日は日がいいから、八幡坂を歩いて来たの」
「はい、これ」
「えっ?バンドエイド…」
「これを買ってから来たの。靴擦れしているんでしょう?」

僕たちはベイエリアのベンチに並んで座り、互いの靴を脱いで並べた。
ブラウンのローファーが秋の陽射しを受け、切なげに輝いていた。
潮の香りが風に混じり、赤煉瓦の壁に映る影が、秋の午後を静かに彩っていた。

あとがき…
この物語は、靴という小さな出来事を通して、秋の函館の光と風を描いたものです。
八幡坂の坂道やベイエリアの赤煉瓦は、誰かと過ごす時間をそっと包み込み
記憶の中で季節と結びついていきます。
靴擦れの痛みさえも、逢いたい気持ちを強くする――
そんな秋の午後の一瞬を、函館の街に重ねてみました。