私は、雪を踏みしめながら八幡坂を登っていた。  

足元で、きゅっ…と小さな音がして、そのたびに冬の空気が頬を刺す。


坂の上では、石畳の道も、レトロな洋館も、うっすらと雪の化粧をまとい、まるで古い絵本の一頁のように静かに佇んでいる。

深呼吸してあたりを見渡すと、潮の匂いを含んだ冷たい風が胸の奥まで入り込み、夏とは違う、どこかロマンチックで切ない函館が広がっていた。


こんなふうに風景が綺麗に見えるのは、きっと、悲しいことがあったからだ。

キラキラと輝く夜景が、まるで水の中で揺れる光のように滲んで見える。

それは、私の涙のせいだった。


あとがき…

八幡坂は、季節によってまったく違う表情を見せてくれます。

夏の眩しい光の中では観光客の笑い声が響くけれど、冬になると、雪と潮風が街の音をそっと吸い込み、どこか時間が止まったような静けさが訪れる。

そんな冬の坂道は、心の奥にしまっていた感情をふいに浮かび上がらせることがあります。

夜景が滲んで見えたのは、悲しみのせいでもあり、その悲しみを受け止めてくれる街の優しさのせいでもある。

函館という場所は、涙を流しても、その涙ごと景色に溶けていくような不思議な温度を持っています。

この短い物語の中に、その静かな温もりが少しでも伝わっていたら嬉しいです。