コートの下は、オフホワイトのオックスフォードシャツ一枚だった。

首元に巻いたマフラーの隙間から、冷たい風が忍び込んでくる。 それでも、今日はこの服で行こうと決めていた。

向かうのは、ベイエリア。

ライトアップされた赤レンガ倉庫が、雪の夜にやわらかく浮かび上がる場所。 彼女との待ち合わせは、あの小さなカフェの前だ。


今日は、クリスマス・イブ。 そして、彼女がセーターをくれる日。

去年の冬、ふとした会話の中で「君の編んだセーターが欲しいな」と言った。 冗談半分のつもりだったのに、彼女は少し照れたように笑って、「じゃあ、来年のイブに」と、そっと約束してくれた。

それから一年。

季節が巡り、雪がまたこの街を白く染める頃、僕はその約束を、ずっと心の奥で温めていた。


カフェの灯りが見えてくる。 彼女はもう来ているだろうか。 胸の奥が、少しだけ早く脈を打つ。

——そして、彼女はそこにいた。 白いコートに、赤いマフラー。 手には、丁寧に包まれた小さな紙袋。


「メリークリスマス」 彼女が笑う。 「はい、約束のセーター」

僕はそっと袋を受け取り、包みを開けた。 中には、深いグリーンのセーター。 彼女の好きな、針葉樹の森の色。


「着てみて」 彼女の声にうなずいて、僕はその場でコートを脱いだ。 セーターの柔らかさが、冷えた体にじんわりと染み込んでいく。

「ぴったりだね」 「うん、あったかい」 「よかった」 彼女は、少しだけ照れたように笑った。


雪がしんしんと降り続ける。 港の向こうで、教会の鐘が静かに鳴り始めた。 ふたりで並んで歩く帰り道、僕はそっと彼女の手を握った。

その手は、セーターよりもあたたかかった。


あとがき…

冬の函館には、静けさの中に確かなぬくもりがあります。 それは、ライトアップされた倉庫の灯りだったり、 雪に包まれた街の音のなさだったり、 あるいは、誰かの手から手へと渡る、ひとつの贈り物かもしれません。

この物語は、そんな「約束のぬくもり」を描きたいと思って綴りました。 一年越しのセーターには、言葉よりも深い想いが編み込まれていて、 それを受け取ることで、ふたりの距離がそっと近づいていく—— そんな静かな奇跡が、冬の夜にはよく似合う気がします。

読んでくださって、ありがとうございました。 あなたの冬にも、あたたかな約束が、そっと降り積もりますように。