お昼までは、あんなに澄んだ青空が広がっていたのに——

夕方になると、大粒の雪がしんしんと降り始めた。 僕たちは、楽しみにしていた函館山からの夜景をあきらめることにした。


ホテルの窓辺に立ち、外を見下ろす。 雪に煙るベイエリアの赤レンガ倉庫群が、ぼんやりと街灯に照らされている。 港には、汽笛の余韻がかすかに残り、凍えるような風がガラス越しに頬を撫でた。

彼女はそっと窓を開け、冷たい空気の中に手を伸ばした。 ひとつ、ふたつ…雪が、彼女の小さな手のひらに静かに舞い降りる。


「見て!」 彼女が微笑みながら、雪をのせた手を僕に差し出した。 「綺麗な雪の結晶が見えるよ」 「ねぇ、どんな形?」 「言っちゃうと、溶けてしまうよ」

僕は心の中で、そっとつぶやいた。 ——ハートの形をしているよ。


あとがき…

函館の冬は、静けさの中に灯るあたたかさがあります。 夜景を見られなかったふたりの時間は、むしろその「見えなかったもの」の中に、かけがえのない記憶を宿したのかもしれません。

雪の結晶は、手のひらに乗せた瞬間に溶けてしまうけれど、 その一瞬の美しさは、心の奥にそっと残り続ける—— そんな想いを込めて、この物語を書きました。

読んでくださって、ありがとうございました。 あなたの中にも、小さな雪の結晶が、そっと降り積もりますように。