トレンチコートがよく似合う、1月の夜だ。

僕は約束の五分前に、静かに待ち合わせ場所へ向かった。

ライトアップに浮かぶ旧イギリス領事館は、降り続く雪に淡く霞んでいる。

白い粒が光を受けて舞い落ちるたび、街の空気は少しずつ深い静寂へ沈んでいった。

もうすぐ、彼女がやって来る。

胸の奥に灯る小さな熱だけが、この冷えた夜をそっと温めている。

二人の夜は、ここから静かに始まるのだ。


あとがき…

冬の函館には、街そのものが物語を語り始めるような瞬間があります。

旧イギリス領事館の灯り、降りしきる雪、そして胸の奥にだけ静かに灯る熱。

そんな、誰にでも一度は訪れる「始まりの夜」を描きたいと思い、この短い物語を書きました。

寒さの中でこそ、ふと心が温まる瞬間があります。

読んでくださったあなたの中にも、小さな灯りがひとつ灯れば嬉しく思います。