2年ぶりに訪れた坂の街は、あの頃とは少し違って見えた。

季節は同じ夏なのに、風の匂いも、街の色も、どこか遠く感じる。

私は、思い出を探しに来たのかもしれない。


はこだて明治館――私の好きな場所は、変わらずそこにあった。

赤レンガの壁も、古い時計も、静かに時を刻んでいる。

2階へ上がると、ふいに響いた音色。

天使の歌声――彼は、オルゴールの音をそう呼んでいた。


広いスペースに並ぶ、たくさんのオルゴール。

一つひとつ、そっと目を留めていく。

その中から、あの夏の日によく聴いた曲が流れてきた。

胸の奥で、何かがほどけるような気がした。

「オルゴールの音色の数だけ、夢がある!」

2年前、彼が笑顔でそう言った瞬間が、ふいに蘇る。

あの言葉も、あの表情も、今も私の中で鳴り続けている。


あとがき…

この物語は、函館の夏に漂う記憶と音色をめぐる、静かな再訪の記録です。

オルゴールの音に耳を澄ませると、過去の風景がそっと立ち上がるような気がします。

坂の街に吹く風は、変わっていくものと変わらないものを、優しく包み込んでくれるようでした。

読んでくださったあなたの中にも、ひとつの音色が響いていたなら嬉しいです。