元町に、パンを買いに出かけた。

「天然酵母パン tombolo(トンボロ)」は、大正十年に建てられた和洋折衷様式の建物で、函館市の伝統的建造物に指定されている。

元町の異国情緒に、静かに溶け込むような佇まいだ。

 

「ハード系パンならこの店!」と地元でも評判のパンは、 自家製の天然酵母と北海道産の小麦、塩、水だけで焼き上げた、素朴で力強い味わい。

 

焼きたてのカンパーニュに、熱いコーヒーとベーコンエッグ。

それが、僕らのランチメニューだった。

 

彼女の運転するシトロエン2CVは、大三坂を一生懸命登っていく。

『ルパン三世 カリオストロの城』──あの作品のおかげで、僕たちはこの車に出会った。

やがて、僕のクラリスが運転する青い2CVは、店の前に静かに停まった。

 

 

あとがき:記憶と季節の交差点にて

春の函館は、記憶の中で静かに息づいています。

この短い物語は、パン屋という小さな窓から、季節の光と心の揺らぎを覗いたものです。

坂道を登る車も、焼きたてのパンも、映画の記憶も──すべてが「今ではないどこか」と「今ここ」の間に浮かんでいるようでにしました。

読んでくださった方の中にも、そんな風景がそっと重なっていたら嬉しく思います。