遅咲きの桜が散り、函館にもようやく本格的な春が訪れた。

花屋の店先には、マーガレットが目立つようになる。

 

「私、マーガレットが大好きなの。もし私と別れても、私の好きなマーガレットの花は、嫌いにならないでね」

昨年、別れ際に彼女がそう言った言葉を、ふと思い出した。

 

あれから一年── 僕は、振り返らないことにした。

これまでの僕は、すべてにおいて振り返る人生だった。

今日からの僕は、前を向き、決して振り返らないことにする。

 

マーガレット。

彼女の好きだった花。

その花言葉は、「誠実」「真実の愛」。

 

両手いっぱいのマーガレットを抱えて、僕は一年ぶりに彼女と再会する。

今から僕は、現在進行形で生きていこうと思う。

そして、僕たちの恋は、新しいページを開くように、また始まるのだ。

 

 

あとがき:春の光に背中を押されて

春の函館は、過去と未来の境界線にそっと光を差し込んでくれます。

この物語は、マーガレットという花を通して、記憶と再生の瞬間を描いたものです。 

振り返ることをやめた主人公が、花を抱えて再び歩き出す姿に、春の風が静かに寄り添ってくれます。 

読んでくださった方の中にも、そんな春の光が届いていたら嬉しく思います。