函館ストーリー「天使の音色が響く坂の街で」

2年ぶりに訪れた坂の街は、あの頃とは少し違って見えた。 季節は同じ夏なのに、風の匂いも、街の色も、どこか遠く感じる。 私は、思い出を探しに来たのかもしれない。 はこだて明治館――私の好きな場所は、変わらずそこにあった。…

函館ストーリー「やきそばパンと放課後」

とても爽やかな午後だった。 青空には白い羊雲が浮かび、風はやさしく吹いていた。 僕は、彼女が待つラッキーピエロ・マリーナ末広店へと急いでいた。 彼女と出会ったのは、ちょうど一年前。 あの日も、こんな…

函館ストーリー「夏空のビアガーデン」

夏の函館には、青空がよく似合う。 今日、彼女とふたりきりのビアガーデンを開いた。 場所は、港の見える小さな屋上。 赤レンガ倉庫の向こうに、海がきらめいている。   グラスの底から立ちのぼる水泡が…

函館ストーリー「地上の銀河と夏の恋」

彼女と初めて訪れた函館の街は、潮風がとても心地よかった。 僕たちは迷うことなく、ロープウェイで函館山へと登った。   函館は夜景が有名だけれど、昼の景色にはまた違った素晴らしさがある。 よく夜景を宝石箱…

函館ストーリー「去年と違う夏」

函館の湯の川温泉にあるホテルは、海のそばに建っていた。 夜には、漁り火が美しく灯るという…   去年は、誰かといた夏だった。 同じ海辺で、同じ波の音を聞きながら、笑い合った。 でも今年は、僕ひと…

函館ストーリー「去年のサンダルを捨てて、今年の夏を歩き出す」

去年の夏、あの人がプレゼントしてくれたサンダルがある。 結局、一度しか履かないまま彼とは別れ、そして夏も終わった。 そのとき撮った写真と一緒に、箱にしまわれたままのサンダルが、今日ふと出てきた。 一年前…

函館ストーリー「あなたに背を向けた、夏の午後」

CM やドラマで知られる八幡坂は、今日も観光客で賑わっていた。 そんな場所に、彼は私を連れてきた――別れ話をするために。 私が取り乱さないように、きっと人目のあるこの坂を選んだのだ。 午後の陽射しが石畳…

函館ストーリー「潮風の午後、基坂にて」

きっと、ベイエリアからやって来るに違いない── 僕は、彼女が現れるであろう基坂を見つめていた。   潮風が、彼女の足音を運んでくる。 それは、僕が待つ元町公園まで、静かに届いた。   ある晴…

函館ストーリー「夜景の地図」

函館山から見る夜景は、あまりにも美しくて、言葉が出なかった。 私は、彼の手を思わずぎゅっと握りしめた。   ふと空を見上げる。 星は、あまりよく見えなかった。 輝く星よりも、夜景の美しさが勝っていた…

函館ストーリー「北北西の風とチェックのシャツ」

街には、北北西の風が吹いている。 元町にあるカトリック元町教会の風見鶏は、函館山を指したままだ。   やがて海風は、潮の香りとパンの焼ける匂いを運んできた。 僕は、彼女が昨日忘れていったチェックのシ…