南風が、北国へと春を運んでくる。

都会の桜はすでに散り、街にはいつもの喧騒が戻っていた。

テレビのニュースが、北海道の桜の開花を伝えていた。

――帰ろうかな、あの坂の街へ。

思わず、ひとりごとのように口にしていた。

東京での暮らしが、自分には馴染まないことを、日に日に痛感していた。

満開の五稜郭公園の桜を思い出した瞬間、涙がこぼれた。

私は、久しぶりに実家へ電話をかけ、「ゴールデンウィークに帰るよ」と伝えた。


あとがき…

春になると、あの街の風が恋しくなる。

桜よりも、潮の匂いよりも、坂の向こうに見える記憶が、私を呼び戻す。