函館ストーリー「第二ボタンの春」

函館ストーリー〈春〉 今年の春は早く、桜はゴールデンウィークを待たずに咲いた。 ある晴れた日、彼女は冬物のコートを風に干しながら、丁寧にブラッシングをかける。 お気に入りのカシミアのコートだ。 とりわけ気に入…

函館ストーリー「魚見坂、ロシアンティー、そして君」

函館ストーリー〈春〉 僕たちは魚見坂を上り、カフェテリア・モーリエに立ち寄った。  大きな窓の向こうには、早春の海が青くきらめきながら、眼下に広がっている。  ロシア料理の店で、僕たちはピロシキとロシアンティーを注文し…

函館ストーリー「春風のささやき」

函館ストーリー〈春〉 元町カトリック教会の風見鶏は、北北西を向いたまま、じっと動かずにいた。 まどろみの午後。かすかな春風が南西へと流れ、僕の耳元でそっとささやく。 「彼女が、元町茶寮で待っているよ」 僕…

函館ストーリー「スイート・レター」

函館ストーリー〈春〉 ホワイトデーの日、郵便受けに大きな封筒が届いていた。  中には、ロイズの板チョコと、一枚のメモ。 「函館の金森赤レンガ倉庫で、見つけた。」 それだけ。 彼らしい、そっけないひと言。 遠距離恋愛中…

函館ストーリー「キミは、とても…」

函館ストーリー〈春〉 今日、久しぶりに彼女と会う。 前の晩、僕は彼女の夢を見た。  春の明け方に見る夢は、正夢になるのだという。 夢の中で僕は、彼女にプロポーズする直前に目が覚めてしまった。 待ち合わせは、旧イギリス…